【掌編】和風ホラー
とある村では、桜の咲く季節になると、若く美しい娘達が相次いで姿を消す。
急いで嫁に行ったり、町へ奉公に出たり、引っ越したりと……事情はさまざまだ。
「今年は、二人が隣村へ嫁に行き、三人が奉公へ出た。相違ないか」
「ございませぬ」
「よし。桜が散るまでは、よくよく気をつけねばならぬな」
はは、と、役人に向かって白髪頭を下げる村の長の顔は、気の毒なほどにやつれている。
この村には、狂おしいほどに美しい桜の老木がある。
その桜には注連縄が巻かれ、一種の信仰の対象であるのだが、花が咲きだすころから、昼夜を問わず仰々しいほどの警備兵が付く。
理由は一つ。
美しい花を咲かせるため、桜が人を殺すからである。
それも、若く美しい娘達ばかり、次々と。
「おい、また娘が一人やられているぞ!」
兵の叫びに、慌てて大人たちが駆けつける。
「どうやって……」
「何時の間に……」
この少女は、さっきまで畑にいたはず。
当然、誰も、少女が此処へ来るのを見ていない。
そして、少女の白い体には、木の根がしっかりと絡みついているのが、痛々しい。
「今年は、あと何人喰らう気じゃ」
娘を喰らうたびにつぼみが赤くなる桜の木を見上げ、村長は涙を零した。
今年の桜も、禍々しいまでに美しい。
【終】
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