【掌編】 ファンタジー
私が見渡す限り、水しかない。凪いだ美しい湖。
そこは文字通り、水の王国。
人々は水中に住み暮らしている。彼らはかつて、大国の侵略から逃れるため、水中に移住したのだそうだ。
王国入り口と札の下がった石門のところで滞在を申し出ると、旅人用に開発された特殊な液体を大量に飲まされた。
「目的は何ですか?」
「宝探しです」
「では、何日でも持つようにしておきますね」
私好みの色白美人が、にっこり微笑む。
水中の酸素を取り込むことができる液体らしく、空気に触れるまでは何日でも有効なのだそうだ。
それでも、息苦しいのは肺機能が発達していないから、仕方がないらしい。
ゆらゆらと、白い湖底を散策してみる。色とりどりの魚が興味深げに近寄ってくるのが、楽しい。
人々は、湖底を耕し家畜を飼い、地上の我々となんら変わらず、普通に暮らしている。
美しい水の王国。人が住める、不思議な湖。
宝玉への入り口だと言われる神殿の前に着き、そっと門をくぐる。
美しい財宝の中から、目的の宝玉、「水のクリスタル」を引っ張り出す。
こうも簡単に手に入ってはかえって心配になるが、それをポケットにしまい、神殿から出ようとした瞬間。
一気に湖の水が引いた。
湖底が剥きだしにになり、魚や家畜、人間がバタバタ倒れている。
「な、なんだ?」
焦った私は、クリスタルを元の場所に戻した。
瞬間、水が一気に戻ってきた。家畜や人々が動き出したのに安堵したのもつかの間。
「ガフッ……ゴフッ……」
特殊な液体の効果が失せた私は、たちまち溺れた。
次に目を覚ました私の身体は、湖底で生活する彼らと同じ身体に改造されていた。
「クリスタルの秘密を知ってしまった人を地上で自由に生活させるわけにはいきませんから、あなたも、我々と同じく空気に触れると、自動的に仮死状態になります」
色白美人が、にっこり微笑んだ。
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